AngelBeats!

コラム - リレーコラム AngelBeats!よもやま話

皆様、はじめまして。
『Angel Beats!』の音楽制作を担当させて頂いております、1st PLACE村山と申します。

たった今、第6話を見終わったところでこのコラムを書き始めています。
こうして放送を見る度に、この作品に携わることができたことの喜びを日々実感しています。

麻枝さんとは、Liaへの楽曲提供やKeyさんの作品の音楽制作でお付き合いが始まりました。(私の会社は音楽制作、そしてKey作品では大変お世話になっているLiaのマネジメント、レーベル事業などを行っています。)
そして一昨年の年末だったと思います。
音楽がかなり重要な役割を占めるアニメ作品の原作、脚本、音楽を麻枝さんが手掛けるということで、お声を掛けて頂きました。
このような素晴らしい作品に参加させていただけたこと、心より感謝いたしております。そして更に、素晴らしい制作陣の皆様が書かれているコラムにも参加させて頂き光栄です。
せっかくの機会なので『Angel Beats!』の音楽制作現場で起きた「ミラクルな出来事」や「裏話」を少しだけご紹介したいと思います。(沢山ありすぎて書ききれませんが)
まずは、BGMから♪

「アニメの劇伴音楽界に一石を投じるようなアーティスティックな作品を作りたい!」
一番最初に麻枝さんから言われた言葉でした。
具体的にはミニマルミュージックやエレクトロニカを取り入れたサウンド主体の音楽、一見BGM=背景音楽としてはあまり適さないだろう個性や主張の強い楽曲を「あえてBGMとして取り入れる」という試みで、その大役に抜擢されたのが数々のLia作品でお馴染みの音楽ユニット「ANANT-GARDE EYES」の2人。
麻枝さんの挑戦、その挑戦を現実のものにできる実力を持ち合わせた「ANANT-GARDE EYES」の2人、そしてスーパー職人技を持つ音楽監督の飯田さん。
完璧な役者が勢ぞろいで、この時点で間違いなく「Angel Beats!」のBGMは凄いものになることは明らかでした。
しかし、幾ら役者が揃ったといっても、そう簡単にミラクルは生まれてくれないのが常です。案の定、制作現場は激しい攻防戦となりました。

究極の職人、クリエイター揃い。それぞれ自分の持ち場に対するこだわりを持っているしブレない人達。。。だれもが主張していることが正しいのです。しかしどうやっても交われない部分で衝突し出します。それも当然の成り行きです。そんなリテイク続出を何度も繰り返す月日が数ヶ月続き、いよいよクライマックスは直接対決の場面に!

戦場はアニプレックスさんの30人位座れそうな大きな会議室。その大きなテーブルの端っこに、左周りに麻枝さん、飯田さん、私、ANANT-GARDE EYESの2人、そしてちょっと離れて裁判官役で鳥羽さん。。。あの日の緊迫した空気感は、それは凄いモノでした。緊迫の度を超えて、なぜか笑ってしまいそうな位の異様な場面でした。
いつ危険な風向きになっておかしくないような空気感の中、口火を切ったのはやはり麻枝さんでした。主張には多大な責任とリスクが伴うものです。しかし麻枝さんは絶対にブレません。そして、その姿勢は皆さんも同様です。
表向きは静かなバトルが続いた後、最後の最後まで悪い意味での妥協をしなかった全員が見事な着地点を見出せたのは奇跡でした。まさにミラクルです!結果「良い作品を作りたい」という共通の想いが皆の根底に強くあったからこそ、最終的に美しい着地が出来たのだと思います。その一念に尽きると思います。しかし恐ろしい(笑)会議でした。私はこの日を「Angel Beats!BGM 春の陣」と命名。皆さんの努力と想いが「最高の作品」という形に転換できた記念すべき日です。

そしてBGMも無事納品し、ガルデモのアルバムレコーディング真っ最中のある日、麻枝さんが持ってきてくれた出来たての「第1話」をスタジオで皆で見ました。
Liaの主題歌、marinaちゃんの「crow song」、葵ちゃんのエンディングテーマ、全てが映像と一体化して新しい魂を授かったようでした。そして、あの壮絶な戦いの末に生まれたBGM達が、生き生きと映像の中で奏でているのを見て、本当に本当に感動と安堵感でいっぱいになりました。
飯田さんの見事な選曲に脱帽です。あんなに個性の強いBGM達が、しかも結構大きな音で流れているのに、映像を邪魔するどころか見事に融合していて、ちゃんとBGMの役割を果たしているのです!「当たり前だろ!」って言われそうですが、、、拍手したくなる位の見事なマッチングで、今までの苦労も疲れも一気に吹き飛ぶような爽快感だったのを覚えています。
そんな皆さんのSoulが込められた「Angel Beats!」のBGM、麻枝さんの挑戦から生まれたANANT-GARDE EYESの素晴らしい音楽を体感いただけたらうれしいです♪

続いて!全21曲、1年がかりで挑んだボーカル曲の制作現場のエピソードを少しお話しします。

Angel Beats!の音楽制作は、2009年2月「crow song」の仮歌入れからスタートしました。
「至急ボーカルオーディション用に仮歌を入れて欲しい」という麻枝さんからのオーダーでした。届いたデモは覚悟はしていましたが、、、やはりキーが高い!
なかなか歌いこなせる仮歌嬢が見つからず焦っていたときに、ちょうど別件で一緒だった多田葵ちゃんを発見。「葵ちゃんお願~い!」と泣きつき歌ってもらえることに。
なので、実は「crow song」は、岩沢役marinaちゃん、Yui役LiSAちゃんのほかに、裏バージョンで葵ちゃんバージョンもあるんです♪
いつか聴ける日があるかも知れませんね。
ちなみに、残りのガルデモ曲も全てキーレンジが限界ギリギリの名曲&難曲ばかりです。
(LiSAちゃん、marinaちゃん、本当にご苦労様でした。)

そしてガルデモレコーディング初日のハプニング?この日は、久しぶりにテンパりまくった日でした。

まず、レコーディング初日ということで、スタジオには鳥羽さんをはじめ、宣伝用ムービーの撮影クルー、取材でいらしているG'sマガジンの皆さん、ガルデモYui役のLiSAちゃん、岩沢役のmarinaちゃんの事務所の方々、とにかく沢山の人がスタジオにいらしていて一気にご挨拶。だれがだれなのかもさっぱり覚えられない状況の中、笑顔が素敵なLiSAちゃん登場!
通常、初めて会う方のボーカル録りを行うときには、30分位雑談なんかをしてコミュニケーションを図ってから開始するのですが、この日はそんな余裕もなく初対面の形式的なご挨拶をしただけですぐ録音開始に。。。
しかもライトのせいか?ボーカルブースに入ったLiSAちゃんの姿が反射で見えない!アイコンタクトも取れない!焦りながらも大体の方向めがけて笑顔を振り撒いて、レベルチェックに突入。
LiSAちゃんが歌いだした瞬間、その日の録りの方向性、着地点が一気に見えるような完成された歌にひと安心。
「あ~よかった~~」と、肩の力もやっと抜けて本番RECに突入。 テンポよくAメロがサクサク録れてきたころに、私の左側から「あの、、、ちょっといいですか?」と麻枝さんの声が。。。
私の横で麻枝さんが頭を抱えています。。。WHY?
そして、麻枝さんの口から出た言葉が「上手すぎるんですよ」と一言。
「えっ???上手すぎる???」意味が分かりません。
すると麻枝さんが「Yuiはこんなに上手くちゃダメなんですよ。そうですよね?鳥羽さん」 と。 「そうですね。上手すぎますね」と鳥羽さん。

さっぱり2人の世界に入れない私はただただ焦るばかり。「上手すぎる」ということは?どのラインで録れば良いのか?着地点が一気に見えなくなり、テンパり度は急上昇です。
すると「オーディションの時の感じが良かったんです。それを再現してもらえますか?」と無茶振りの麻枝さん。
と言われてもオーディションに参加していない私はテンパりレベルがピーク越えに!
その様子を際してくれたのか?感の鋭いLiSAちゃんが見事に麻枝さんの要望に応えてくれて一件落着。
なるほど!Yuiちゃんらしくもあり、LiSAちゃんの魅力が引き立つキュート&ロックな曲が完成。「Thousand Enemies」です。

続いてmarinaちゃん登場。
LiSAちゃんとは全く違ったキャラ、声、ボーカルスタイル。さすが麻枝さんです。こんなに違う個性を持った2人を選び抜いたんですね。
marinaちゃんの初日は「my song」でした。岩沢が消えてしまう最後の曲。
marinaちゃんの直球でハートに訴える歌声を初めて聴いたとき、体中に衝撃が走りました。素晴らしい説得力のあるボーカルの持ち主です。あの日、marinaちゃんの歌う「my song」を、コントロールルームにいた全員が静かに聴き入っていたのを覚えています。ライブのような一体感。

そんな印象的な初日のRECを共にしたLiSAちゃん、marinaちゃん。今ではかわいい娘のようです。
2人共、麻枝さんによって人生の新たな岐路を見出された「選ばれし人」です。キラキラ輝いています。きっと近い将来大きな夢を叶えることでしょう。今後が楽しみです。

このプロジェクトでは、本当に沢山のミラクル、感動的な出来事を体感させて頂きました。現場では、幾つもの感動の涙がありました。
麻枝さんの周りでは素敵なことが沢山起こります。

レコーディングを終えたmarinaちゃんの感謝と感動の涙。
LiSAちゃんとご飯を食べに行ったときにLiSAちゃんが涙ながらに語ってくれたYui役抜擢への想い、そしてその想いが溢れ出てまた泣いてしまった「Angel Beats!」の討ち入り挨拶。
これから登場するKさんの挿入歌にまつわるストーリー。Kさんの歌を聴いて号泣した麻枝さんの涙。歌い終わって溢れ出たKさんの涙。。。この出来事は、本当に言葉では言い尽くせないような感動的な結末でした。(麻枝さんの開発日誌にその時のことが書かれています)

私はもらい泣きしっぱなしでした。これだけピュアで一途に音楽に没頭できる現場を与えてくれた麻枝さんは、、、本当に凄い方です。AB!のレコーディング現場は麻枝さんを発信源とするピュアの連鎖が起こり続ける、思い出に残る素敵な現場でした。

そして、麻枝さんの曲と抜群の相性を持つLia、葵ちゃん。
Liaは主題歌の「My Soul,Your Beats!」を録音した時には、お腹の中に7ヶ月になる赤ちゃんがいて、レコーディング中は、Liaの歌にノッっていたのか?何度も赤ちゃんにお腹を蹴られたそうです!いつもLiaのレコーディングではOKを出しまくりの麻枝さんが、この曲では「ドライブ感を!」と何度もリテイクを出していました。まさしく麻枝さんVSLiaの真剣勝負。Liaも大きなお腹をかばいながら、麻枝さんの期待に応えるべく精一杯歌っていました。
歌い終わった後は、久しぶりのレコーディングと歌い切った達成感でか?テンションが上がりっぱなしのLia。「私はもう帰らなくちゃ!」と言いながら、その後の多田葵ちゃんのRECが終わる深夜、というか早朝まで、ずっとスタジオで一緒にレコーディングに参加してました。

続いてエンディングの葵ちゃん。歌仕事には慣れっこの葵ちゃんですが、この曲は究極のこだわりを見せてくれました。最後のサビの1フレーズは、麻枝さんも私もOKを出していても、葵ちゃん自身が納得レベルに達するまで何度も何度も挑戦してくれていました。

最後に!一連の音楽制作で実稼動時間は間違いなくダントツのエンジニアのnagieさん。最後の最後までこだわり続けて作品達を磨き上げてくれました。
そして遠隔で京都からガルデモ曲全18曲のアレンジとギターを制作して下さった光収容さん。ずっとレコーディングに立ち会って下さったスタッフの皆様、本当にお疲れ様でした!

こうして、Angel Beats!の学園のように、仲間達と過ごした楽しいレコーディングも間もなく終わろうとしています。作品が完成してうれしい反面、しばらくは寂しくなりそうです。

そして!いよいよ麻枝さん率いる音楽チームが1年以上かけて作り上げた作品が次々リリースされます♪
第一弾ガルデモシングル、岩沢役のmarinaちゃんが歌う「crow song」。先日リリースされたYui役のLiSAちゃんの「Thousand Enemies」に続いて、 Liaが歌う主題歌&多田葵ちゃんが歌うエンディングテーマのシングル。
LiSAちゃんが歌う「Little Braver」のシングル(未発表曲です♪)。
新曲が盛り沢山、ガルデモのフルアルバム「Keep The Beats!」。
そしてAngel Beats!のBGMがフル尺で収録されるサウンドトラックアルバム。

是非一人でも多くの方に聴いていただけたらうれしいです。

皆様、引き続き「Angel Beats!」の応援をどうぞよろしくお願いいたします。

1st PLACE 村山 久美子

(C)VisualArt's/Key (C)VisualArt's/Key/Angel Beats! Project